| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-451 (Poster presentation)
近年、炭素隔離技術として、バイオチャーの活用が注目されている。バイオチャーの散布は陸上生態系の炭素動態に大きな影響を与えるが、炭素固定源として重要な役割を果たす森林生態系における研究は少ない。そこで本研究では、バイオチャー散布が森林生態系の炭素動態の応答に与える影響を解明することを目的として、3年間調査を行った。
2015年11月に、コナラ林において1haあたりのバイオチャー散布量に応じた0t区、5t区、10t区を設置し、各区画において土壌呼吸量(SR)、枯死・脱落量(LF)、樹木成長量(ΔB) 、細根NPPを測定した。また、純一次生産量(NPP)をLFとΔBと細根NPPの和から算出し、従属栄養生物呼吸量(HR)は寄与率を用いてSRから推定した。さらに、生態系純生産量(NEP)をNPPとHRの差から算出した。
HRは3年間を通して、バイオチャー散布区で高い値を示し、有意な増加が散布後2、3年目にみられた。これは、バイオチャー散布により微生物量が増加し、増加応答が経年的に強まったことに起因すると考えられる。また、LFは3年間を通して、バイオチャー散布による光合成速度の増加に伴い、バイオチャー散布区で高い値を示した。LFの中でも、コナラの生殖器官において、強い増加応答がみられた。これは、バイオチャー散布により土壌中の可給態リンが増加し、生殖器官の成長が促進されたためと考えられる。さらに、ΔBは樹木現存量が5t区で最小値を示したことに起因し、3年間を通して5t区で最小値を示した。しかし、散布後1年目と比較すると、2、3年目にバイオチャー散布区において、ΔBが相対的に高い値を示したため、バイオチャー散布により樹木成長が促進された可能性がある。以上の結果より、NPPとNEPは5t区で最小値を示した樹木現存量の影響を受け、3年間を通して、5t区で最小値を示した。したがって、今後の課題として、樹木現存量の初期値をそろえた調査区における研究の必要性が示唆された。