| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-452 (Poster presentation)
複合景観である里山の異景観の間での物質的繋がりと物質循環機能を解明するために、里山流域スケールで水文プロセスと人為プロセスによる窒素フローの定量化を行った。そこから里山における窒素動態の特徴を明らかにし、物質循環的側面から里山の管理方針・管理手法を検討した。
調査は新潟県佐渡市岩首地区で行った。岩首地区の流域のうち棚田・森林の主要部分(流域面積0.987km2、農地面積0.0957km2)を対象流域とした。この流域において、流域内外の窒素フローに関してインプットとアウトプットが等しくなるという仮定の下に窒素収支を算出した。また流域内の異景観の間でのフローに関しては収支と分けて定量化を行った。
窒素収支結果から、総インプットのうちの55%は肥料によるものであることが示され、里山内の窒素循環における人為プロセスの影響の大きさが明らかとなった。また、本研究対象地において農地は流域総面積の約1/10程度しかないということと、施肥は4月下旬と7月下旬のごく限られた期間のみに行われるということから、里山の窒素インプットの半分以上は狭域に短期的に集中投入されるという窒素動態の特徴が明らかとなった。
また里山における放棄化の進行した森林は多量の窒素を蓄積しており、下流域へは現在用いられている一発型の肥料の溶出量と稲の窒素吸収量のピークが一致していないために施肥時期に大量の窒素流出が起こっていることが示唆された。今後、森林から農地に窒素を送り込むことによる窒素資源の有効利用が里山管理をする上で求められてくると予想される。下流域への流出は、元肥としての投入割合を減らして追肥による投入割合を増やすという新たな分施型の施肥法により抑制が可能となることが考えられた。現在里山においては生物学的な価値指標が先行した管理がなされているが、そこに物質循環的な視点を組み込むことが重要になってくると考えられる。