| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-453  (Poster presentation)

窒素飽和状態下にある落葉広葉樹林における渓流水水質の長期変動
Long-term trend of the stream water chrmistry in a nitrogen saturated deciduous forest ecosystem

*牧野奏佳香(京都大学), 徳地直子(京都大学), 川上智規(富山県立大学)
*Soyoka Makino(Kyoto Univ.), Naoko Tokuchi(Kyoto Univ.), Tomonori Kawakami(Toyama Pref. Univ.)

化石燃料の燃焼に伴う窒素(N)負荷の増加から、各地でN飽和が報告されてきた。N飽和は土壌の酸性化や森林生態系からのN(主に硝酸(NO3-))流出等を引き起こし、N動態に大きな影響を及ぼす。近年、欧米ではN負荷量が減少する一方で大気二酸化炭素濃度は上昇を続け、N不足に関心が寄せられ始めている。しかしながら、N動態は環境変動、土壌の脱酸性化、攪乱による植生変化等の要素の影響も受けるため、単に負荷量の減少だけでは今後の予想が困難である。本発表では、N負荷の減少が予想される現状においてN動態の変化を明らかにするために、N負荷減少の影響がより顕著に現れると考えられるN飽和状態下の森林でNO3-流出の長期変動を整理する。
富山平野中央部で観測された大気N酸化物濃度は1970年代に大きく低下しており、N負荷量も同時期に減少していた可能性が考えらえる。同平野中央に位置する呉羽丘陵では、2003年に採取された渓流水のNO3-濃度が約160 μeq l-1と県全域で最も高い。そこで、呉羽丘陵での1998年から2012年の渓流水長期データを用い、NO3-流出の変動とその要因について検討した。解析では、NO3-濃度と流量の実測値を基に作成されたタンクモデルによって各毎時データを求め、以下のRによる時系列解析に適用した。
渓流水のNO3-濃度に季節性が見られたため、局所回帰平滑化モデルを用いて長期(経年)変動と短期(季節)変動に分解した。季節変動は確認されたが、明確な長期の傾向は見られなかった。そこで、季節ごとの経年変動を調べるために、NO3-濃度データを月ごとに分解した。いずれの月においても不規則な経年変動を示し、有意な増減の傾向は見られなかった。全ての月で降水量、流量、NO3-濃度間に強い相関が見られたことから、渓流水NO3-濃度の不規則な変動は降水量の増減に依存していると考えられた。多くの先行研究ではN負荷量が減少した後でも森林内にNが蓄積し続けると予想されており、これを支持する結果となった。


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