| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-455 (Poster presentation)
下層に繁茂するササは広葉樹林の更新を抑制することから、広葉樹更新を意図した下層植生除去がしばしば検討される。しかしこのような施業によって、土壌の水質形成にどのような影響があるのかよくわかっていない。本研究は、奥大山の落葉広葉樹林にてササを除去した試験区で土壌水の化学性を調査した。若齢の落葉広葉樹林のササ刈り区と対照区、近隣のブナ成熟林において土壌表層30㎝深と深層100㎝深の土壌水を採取し、化学性をイオンクロマトグラフィーで分析した。採水は2018年5月から11月まで行った。土壌水のClは各調査区において土壌深30㎝<100㎝であり、Na、Mg、Caにおいても同様の値の傾向を示している。ブナ成熟林はNO₃濃度が土壌深30㎝>100㎝である。ブナ成熟林では土壌中に上層木の根系が発達し土壌中のNO₃を効率的に除去していることが考えられる。季節変化をみると土壌深30㎝では各調査区においてNa、Mg、Ca、Clが5月の試料で大きな値を示し、その後減少または一定で推移し11月の試料で再び増加した。これは、林外雨のイオン濃度の季節変化とおおよそ対応していた。K、SO₄は11月の試料ではどの調査区でも最小値になった。NO₃は対照区において9月、10月に大きな値を示し、NO₃の蓄積が進んだことが推察される。8月に例年にない高温が続き降水量も少なかったため、対照区の表層土壌は硝酸化成が進み、雨水浸透による流出が十分ではなかったと考えられる。一方で、ササ刈り区の表層土壌では同時期にNO₃の増加は認められず、ササ刈りによって土壌の硝酸化成が抑制されていた可能性がある。今後地上部のササの刈り取りに対する土壌中のNO₃生成について窒素動態をより詳しく検討する必要がある。