| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-457 (Poster presentation)
近年日本各地で生じている個体数の増加したシカによる下層植生の衰退は、リター分解といった森林生態系機能に負の影響を与えると考えられる。しかしシカによる衰退環境下でリター分解への影響を調査した研究例はない。したがって本研究では九州大学宮崎演習林におけるスズタケ衰退環境下で、リター分解への影響を明らかにすることを目的とし、土壌環境・複数のリター形質を用いたリター分解速度の比較を行った。宮崎演習林内の落葉広葉樹林にスズタケ衰退段階の異なる4サイト ( ササ多、ササ少、ササ稈のみ、下層なし ) を設定し、それぞれのサイト内に5プロットを設置した。リター分解速度は、2018年6月から4か月間、各プロットにリターバッグを設置して調べた。同時期に土壌含水率、下層および上層木の葉面積指数 ( LAI )の測定、中型土壌動物の採取等の調査を各プロットにて行った。リターバッグのメッシュサイズは1mm ( 土壌動物侵入可 ) と42µm ( 土壌動物侵入不可 ) であり、内容物として形質の異なる3樹種 ( ミズナラ、ミズメ、ブナ ) のリター を使用した。回収後の乾燥重量から初期重量に対する重量減少率を算出した。
ササ多サイトと比較して下層なしサイトでは有意に土壌含水率が高く、下層LAIが小さく、中型土壌動物個体数が少なかった。またリター重量減少率は、サイト間、樹種間、メッシュサイズ間で有意に異なっていたが、いずれの樹種、メッシュサイズにおいても、ササ多サイトと比較して下層なしサイトではリター重量減少率が低かった。またサイトと樹種の交互作用はリター重量減少率に影響しておらず、下層植生がリター分解に及ぼす影響は樹種によって変化していなかった。以上の結果より、本調査地ではスズタケの衰退による林床被覆の減少が土壌含水率の高さを招いており、それが土壌動物個体数の減少や微生物活性の低下を介して、リター分解に負の影響を与えていたことが示唆された。