| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-460 (Poster presentation)
福島第一原発の事故から8年が経過した現在でも、福島県内の河川に生息しているヤマメなどの淡水魚の137Cs濃度は、国の食品安全基準値(100Bq/kg)を大きく上回っている。一方で、河川水の137Cs濃度は極めて低濃度であり、陸生資源を介した魚類への137Cs移入が予想される。福島県内の各地でヤマメを採取し、陸上の空間線量にヤマメの137Cs濃度を回帰したところ、有意な正の関係 (p=0.001) がみられたが、大きなばらつきが見られた。そこで本研究では、河川間でのヤマメの137Cs汚染度合いのばらつきの原因は、食べている陸生水生餌資源の割合の違い、生息している河川環境の違い、餌資源の汚染度合いの違いによって生じているという仮説を立てた。野外調査により得られた各データを説明変数とし、ヤマメ各個体の線量値を目的変数として、最適なモデルを作成した。このとき説明変数とした各変数の調査地点ごとの値をPCAにより座標化し、クラスター解析により傾向が類似している変数を10のグループに分けた。結果、最適なモデルはカワゲラ、カゲロウ、甲虫の各線量値と開空度、川幅を説明変数とするものであった。このモデルに、陸生資源だけではなく、水生資源も含まれることは、ヤマメの137Cs汚染度に、陸生資源だけではなく水生資源も影響を与えていることを示唆する。ここで、ヤマメの餌資源である水生昆虫は、PCAにおいてそれぞれ異なるグループに属している。藻類食者であるカゲロウと藻類の137Cs 濃度は陸上生態系の要素と同様の傾向を示しており、藻類への陸上生態系の影響が示唆される。一方で、トビケラが餌資源としている河川中のPOMは、陸上の137Cs濃度とは独立した変動を示していた。このように、河川に生息するヤマメへの137Csの移行経路は、陸生資源の落下のみを介した単純なものではなく、いくつかの経路が存在することが示唆された。