| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-466 (Poster presentation)
コイ目タナゴ亜科魚類は、淡水性二枚貝の鰓内に産卵する生態をもつ。タナゴ亜科のヤリタナゴ(Tanakia lanceolata)とアブラボテ(T. limbata)は、西日本において広く共存しており、人工交配によるF1は妊性をもつことが知られているが、生殖隔離によって自然水域における交雑は稀だとされてきた。しかし、愛媛県松山平野の河川においては、約40年前に人為的に移入されたアブラボテが定着し、希少在来種のヤリタナゴと種間交雑している。
本研究では、侵入種による種間交雑の程度を調べるために、両種の成魚を採捕し、核マイクロサテライト6遺伝子座とミトコンドリアDNAのcytochrome b遺伝子配列に基づいて、種間交雑の有無および遺伝子浸透の方向性を決定した。また、両種ニッチの重複度を推定するために、計数形質と幾何学的形態計測法によって、ヤリタナゴ、アブラボテおよび両種の交雑個体の外部形態を分析した。
結果として、採捕された個体のうち10.9%が両種の交雑由来だとわかった。交雑は両方向に起こっていたが、多くの場合で、在来種ヤリタナゴの雄と移入種アブラボテの雌とが交配していた可能性が高い。形態に関して、アブラボテはヤリタナゴに比べ、体長に比して体高が高く臀鰭基部長が長かったが、交雑個体は両種の形態の間で大きくばらついた。ヤリタナゴは河川下流から中流域に、アブラボテは中流から上流域に多く分布していたが、交雑個体は河川全体に広く分布していた。これは、体高の差異による流速への適応と考えられ、交雑由来の個体は、さまざまな形態を持つため、河川全域に分布を広げていると推定された。したがって、アブラボテの人為的な移入がヤリタナゴとの交雑を生じさせ、交雑個体は在来ヤリタナゴ個体群に対して、ニッチの重複により資源を巡る競合かつ、さらなる遺伝子浸透を引き起こす脅威となっていることが示唆された。