| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-469 (Poster presentation)
生息地の分断化や消失、改変は生物多様性を減少させ、種の局所的な絶滅を招くことが指摘されている。地球規模の環境変動によって、自然生態系においても生息地面積の縮小は起こり得る。実際に日本の湿原では急速な面積減少が起こっている。このような急速な生息地面積の減少から種の多様性が低下するまでには長いタイムラグがあるとされ、将来失われると予測される多様性の大きさを絶滅の負債(Extinction debt)と呼んでいる。
本研究では、湿原生態系を対象に、生息地の環境条件を考慮し、景観変化に伴う局所絶滅の遅れの検出を目的とし、また機能的多様性を用いることで将来的な機能形質の消失の可能性を同時に考慮した。
応答変数を種の多様性、機能的多様性、説明変数を環境要因、景観要素とし、重回帰分析を行なった結果、湿原の種の多様性と過去の湿原の凝集度とpHが正の相関を示した。一方、機能的多様性は過去の凝集度と相関がなかった。
結果より、pHの低い湿原は環境の厳しさから、種や個体数を多く含めない可能性が示唆され、湿原の植物群集においてpHは多様性を決定する要因の一つであると考えられる。
種の多様性が面積より凝集度と相関を示し、現在より過去の凝集度に相関を示したことから、種の多様性は分断化以前の湿原の面積に依存していることが示唆され、生息地の改変と種の消失の間に時間的遅れが存在している可能性がある。
一方で機能的多様性は過去の凝集度と相関を示さなかったことから、種数と形質の多様性の増減パターンは必ずしも比例しないことが示唆された。このことから、調査サイトの植物群集の形質は類似する傾向があり、将来の局所絶滅に対して形質情報の消失がある程度起こりにくい可能性がある。しかし形質情報の消失の程度はどの種が失われるかにより、左右される可能性がある。