| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-471 (Poster presentation)
オオサンショウウオ(Andrias japonicus)は、生息環境の破壊や分断化によって個体数が減少しており、IUCNレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されている。主な生息地である中国地方の山間部では比較的広い範囲で生息が確認されるが、産卵の確認例はごく限らたものしかない。これら希少種の保全にあたっては、生息の有無だけでなく産卵場所の把握が特に重要な意味をもつ。本種の産卵様式は体外受精であり、8月末から9月にかけて行われる。近年、環境DNA量の季節変動をモニタリングし、生物の産卵行動を検知できる可能性が示唆されてきた。さらに、精子にはミトコンドリアDNAに比べて核DNA量が多いことから、環境DNA中の核DNA/ミトコンドリアDNA比が産卵期の指標となりうることが魚類で報告されている。既存研究では、兵庫県の武庫川水系羽束川においてオオサンショウウオの繁殖期に核環境DNAの大幅な増加を検知することができたが、野外で採水して定量PCR法で結果を得たに過ぎず、実際に目視で産卵行動を確認したわけではなかった。そこで、本研究ではオオサンショウウオの産卵を実際に目視確認できる人工巣穴の周辺において、環境DNA量の挙動を調査した。調査場所は本種の飼育下産卵に成功している広島市安佐動物公園内の繁殖施設と、人工巣穴を設置している北広島町志路原地区を流れる江の川水系の2河川である。調査の結果、繁殖施設では産卵後に著しい環境DNAの増加が見られた。一方、生息河川では非繁殖期に比べて繁殖期に環境DNA量が多いものの、産卵行動に伴って環境DNA量が増加した巣穴と、変化しなかった巣穴があった。これらの結果から、繁殖施設のような閉鎖環境では産卵行動に伴う環境DNA量の増加を正確に検知できるが、河川のような開放環境では水流でDNAが即座に流れ去った可能性があり、正確に検知できなかったと考えられる。