| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-473 (Poster presentation)
堅果をつけるブナ科植物は,渡海分散が困難なため,最終氷期以降の日本列島の地史を考慮しつつ現在の植生の成立を検討する上で重要な研究対象である.一方で,先史時代からヒトが利用してきた樹種も含まれ,人為的撹乱の結果,本来の自然分布か否かの判断が難しいこともある.ウバメガシQuercus phillyraeoides A. Grayはブナ科コナラ属の常緑広葉樹で,本州から南西諸島および中国の沿岸の岩場に生育するという特異な傾向を持ち,他のシイ・カシ類のような連続分布となっていない点において,生物地理学的に興味深い.
個々の自生地の植生調査報告や広範囲な系統解析例はあるが,本研究では,特に九州と南西諸島の自生地の植物社会学的な調査とウバメガシ個体の生育状況の計測に重点を置き,各調査区内の個体の葉緑体DNAの特定領域の分子系統解析とゲノムワイドな多型に基づく遺伝的解析も試み,過去の研究例と比較した.
植物社会学的解析の結果,大多数の自生地がウバメガシ-トベラ群集に分類された.多変量解析の結果,渡瀬線を境にウバメガシ自生地植生は二分されたが,九州島西側の自生地では南方系要素が入りこんでいることがわかった.ウバメガシ個体の計測結果を検討したところ,伊平屋島は九州沖縄の自生地の中で最も顕著に攪乱が起こっている形跡があった.沖縄島の個体は林況から移植された可能性が高いと判断した.葉緑体DNA3領域の分子系統解析の結果,4タイプが検出され,祖先的なタイプは伊平屋島,下甑島と沖縄島にみられた.ゲノム全体を解析した結果,沖縄3島に最も祖先的なタイプが確認された.沖縄島の個体が人為分布であるとすると,近隣の島から移植された可能性が高いと考えた.屋久島や,過去の研究例において最終氷期の常緑樹のレフュジアとされた大隅南部からは複数のタイプが検出され,そこから各地方へ派生した可能性が示唆された.