| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-474  (Poster presentation)

絶滅危惧種イズノシマホシクサの個体群動態・生育環境・遺伝構造に基づく保全への提言
Implication of conservation of endangered plant: Eriocaulon zyotanii based on population dynamics, habitat environment, and genetic structure

*村井貴幸(筑波大学生命環境科学), 荻原麻衣(筑波大学生命環境科学), 上條隆志(筑波大学生命環境科学), 田中法生(国立科学博物館), 石田賢也(七島花の会)
*Takayuki MURAI(Univ. of Tsukuba Life and Env.), Mai Ogiwara(Univ. of Tsukuba Life and Env.), Takashi Kamijo(Univ. of Tsukuba Life and Env.), Norio Tanaka(Natl. Mus. Nat. Sci.), Kenya Ishida(Flower group of Izu isls.)

 イズノシマホシクサ(Eriocaulon zyotanii)は、伊豆諸島神津島天上山にのみ生育するホシクサ科ホシクサ属の湿地性一年生草本で、環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類に指定されている。生育地である池の乾燥化や生育面積の減少による絶滅の可能性が指摘されており保全の必要があるが、本種やその周辺環境、遺伝構造等の基礎的なデータが不足しており、具体的な方策を検討することが難しい。本研究は本種の遺伝的多様性と集団遺伝構造の評価、個体数と水位や競合種の変動との関係性を評価し、さらに操作実験として競合種の除去を行い、それらの情報を元に本種の具体的な保全策を提示することを目的とした。
 2014年当時に本種の生育が確認できた6つの池を調査対象地とし調査区を設定した。2014年から2018年の間、調査区内にて本種個体数の計数、植生調査、水位測定を実施し、2016年と2017年には各池から数個体ずつ選んで葉を採取し遺伝解析を実施した。さらに2017年に競合種であるウマスギゴケの除去試験を行った。
 遺伝解析から各池集団内の遺伝的多様性は非常に低い値を示し、6つの池集団は2つのグループに分かれることが示唆された。個体数は調査区ごとに変動があるが全体では減少傾向であり、生育域境界部分において競合種であるウマスギゴケの増加による本種の個体数減少が示唆された。またウマスギゴケの除去を行うことで本種個体数と生育域の回復が見られた。
 保全方策は遺伝解析により示された2つのグループで個別に検討し、片方のグループは個体数が多いがウマスギゴケの影響が大きいため除去による生育域の維持を、もう片方のグループは個体数が非常に少ないため生育域内外で個体の保護や増殖を行う必要があると考えられる。またいずれの池集団も遺伝的多様性が低く非常に脆弱であると考えられるため、周辺環境や個体数変化のモニタリングを継続して行い、急激な環境の変化や個体数の減少に対応できる態勢を整えておくことが重要である。


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