| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-486 (Poster presentation)
近年、里山や半自然草原における人間活動の低下により、草原性チョウ類は生息地の減少が各地で懸念されている。日本では、人工林の新植地が半自然草原に代わる草原性チョウ類の代替生息地となってきた。しかし、近年の森林施業の長伐期化に伴って新植地の発生頻度が低下することにより、今後はこれらの草原性チョウ類の生息地としての役割が低下する可能性がある。一方、人工林地帯における鉄塔送電線下の送電線線下用地と鉄塔用地(以下、送電線敷)は、低頻度の植生管理により多様な植生が存在するため、草原性チョウ類の代替生息地や森林性チョウ類の移動経路として重要な役割を果たしている可能性がある。そこで、本研究は、人工林地帯における草原性および森林性チョウ類の生息環境としての送電線敷を評価することを目的に、送電線敷、新植地、林道、老齢人工林におけるチョウ類の種数と個体数を記録するとともに、チョウ類の生息する要因を検討するために、各環境における幼虫餌資源量と成虫餌資源量を測定した。その結果、送電線敷では種数および個体数ともに最も多くの草原性チョウ類が生息していた。一方、森林性チョウ類は、種数および個体数ともに老齢人工林で最も少なく、送電線敷、新植地、林道では有意差が認められなかった。また、草原性チョウ類の生息には成虫餌資源量が、森林性チョウ類の生息には幼虫餌資源量と成虫餌資源量およびそれら以外の要因も重要であると考えられた。以上から、人工林地帯における草原性チョウ類の生息環境として、さまざまな植生を有し成虫餌資源である着花植物が豊富に存在する送電線敷は、重要な役割を果たすと考えられる。また、送電線敷は、老齢人工林より着花植物と幼虫餌資源である食餌植物が豊富に存在することから、人工林地帯における森林性チョウ類の生息環境にもなりうると考えられる。