| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-487 (Poster presentation)
自然生態系の農地への転換は、生物多様性への大きな脅威である。一方で1950年頃より、世界的に耕作放棄地の面積が増加している。そのため、生物多様性の保全を進める上で、耕作放棄地の生物の生息地としての価値の評価が求められている。既往研究からは、その生息地としての価値は、種や機能群ごとに異なる可能性が示されている。そこで本研究では、北海道全域を対象に、耕作放棄地に生息する鳥類の種数・個体数を機能群(裸地性・草原性・森林性)ごとに、農地や湿原と比較した。また、北海道内の気温や降水量は地域によって大きく異なり、鳥類の分布に影響する可能性がある。そのため、農地や湿原と比較した、耕作放棄地に生息する鳥類の種数・個体数が、気候に応じて異なるかについても調べた。
湿原・耕作放棄地・農地(牧草地・畑・水田)を調査対象の土地利用とし、北海道全域の平野部に113地点の調査地を設定した。2017年の鳥類の繁殖期に調査を行い、鳥類各種の個体数を記録した。そして、各調査地における鳥類各種の個体数を応答変数、気候(繁殖期の平均気温・降水量)、土地利用カテゴリ、土地利用カテゴリのうち耕作放棄地カテゴリのみと気候の交互作用を説明変数として、階層群集モデルで解析した。この結果から、3 haあたりの機能群ごとの種数・個体数を推定した。
裸地性鳥類の個体数は、湿原や耕作放棄地よりも農地で多かった。一方、耕作放棄地における草原性鳥類の種数・個体数は湿原に匹敵し、いずれも農地より多かった。そして、ほぼ全ての種において、耕作放棄地カテゴリと気候との交互作用は有意ではなかった。つまり、北海道内の気候の差異に関わらず、耕作放棄地は裸地性鳥類にとっては不適な生息地であるものの、草原性鳥類にとっては湿原に匹敵する生息地として機能していた。本研究の結果から、生息地を大幅に失ってきた草原性鳥類を保全する上で、耕作放棄地の活用は重要な手段であると考えられる。