| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-490 (Poster presentation)
日本の多くの湖沼では、水質悪化や地形の改変などにより、水生植物の衰退・消失が続いている。休眠性があり長寿命な種子を形成する植物は、地上の植物が消失しても、土壌シードバンクから発芽し、再生することが期待できる。しかし、新たな種子の供給がない限り、土壌シードバンクの密度は時間とともに低下する。そのため、植物の発芽・成長・種子の再生産が実現できない状況が長く続くと、再生のポテンシャルが失われる。湖沼において水生植物の消失をもたらしている要因の多くは、解決までに長い時間を要するため、環境改善の取り組みと並行して土壌シードバンクを枯渇させないことを目的とした取り組みを行うことが重要である。
私たちは、霞ヶ浦を対象に、1)水生植物が減少・消失した湖沼では湖底の土壌シードバンクの種子密度が時間とともに低下するか、2)土壌シードバンクから植物を再生させる事業は、土壌シードバンクの密度回復に寄与するか、という点を検証する研究を行った。
まず、2018年に湖底からサンプリングした土砂中のシードバンク密度を、2004~2006年に同じデザインで行われた実験の結果と比較した。過去の調査と比較して、土砂の体積あたりの種数は低下していた。個体密度は増加していたが、これは特定の種(アゼナ)の密度を反映したものだった。次に、2002年に植生再生事業を行った場所のシードバンクを調査した。近年の種子散布を反映していると考えられる「表層」、再生事業直後に散布された種子を蓄積していると考えられる「中層」、新たな種子供給がなかったと考えられる「下層」を比較したところ、表層で種密度が高く、中層で個体密度が高かった。またシャジクモやイガガヤツリが中層の土壌から確認され、再生事業によって再生産された散布体が残存していることが示唆された。