| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-494 (Poster presentation)
半自然草原は管理放棄・森林化によって大部分が失われ、草原性動植物の多くが絶滅の危機にある。草原には、古くから草原だった場所が今も草原として残る古い草原と、一度森林化し近年スキー場等の利用のため再草原化した新しい草原の2つがあり、草原の時間的連続性から観た植生履歴が異なっている。近年、植生履歴が群集形成に与える効果は群集生態学の中で重要視されているが、草原での研究は限られている。私達はこれまでに、菅平地域において、草原の植生履歴によって植物種組成が大きく変わることを報告した。成立時期の異なる草原間の生物群集の差は、草原の生物群集の形成過程を明らかにする助けとなる。今回、調査地を菅平・白馬・霧ヶ峰の3地域に拡げ、菅平では新たに幼虫の宿主特異性が高く植物から影響を受けやすいと考えられる蝶類の調査を加え、草原の植生履歴の影響をより広範に検討した。
3地域のいずれでも、古草原と新草原の間で植物種組成が異なっていた。新草原と森林の間の種組成は、古草原と森林の間よりも似る傾向があった。維管束植物種数は、菅平地域では古草原・新草原・森林の順に多く、他地域でも同様の傾向だった。
植物と違って移動性がある蝶類では、調査地点だけでなく周囲の植生履歴に影響され、半径約500 m以内の古い草原の面積が蝶類の群集に効いており、新しい草原・古い草原の合計面積は効いていなかった。また、蝶類群集は季節によって異なり、早期では古・新草原の間で種組成が異なり、晩期ではその違いがなくなった。蝶類の種数・個体数は草原間では差が見られなかった。
指標種分析の結果、植物・蝶類ともに新しい草原よりも古い草原の指標種が多く、古い草原に特有の生物群集が残っている可能性が高い。
以上から、新しい草原は森林化の影響が残っており、古い草原の特徴を取り戻していないこと、また、蝶類は特に発生早期に植生履歴の影響が顕れることが分かった。