| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-495  (Poster presentation)

九州北部の自然水域における希少タナゴ類の種間交雑
Hybridization between Endangered Bitterling Species in Natural Water Area of Northern Kyushu

*梅村啓太郎(九州大学), 小山彰彦(熊本大学), 鬼倉徳雄(九州大学)
*Keitaro Umemura(Kyushu Univ.), Akihiko Koyama(Kumamoto Univ.), Norio Onikura(Kyushu Univ.)

 種間の交雑は雑種による生息地の侵略、遺伝子浸透による遺伝的差異の劣化など、種の存続にさまざまな影響を与える。主に氾濫原環境に生息するタナゴ亜科魚類は、生息環境の悪化や外来種の影響などにより絶滅が危惧されるような状況にあるが、外来種と在来種の交雑も問題視されている。例えば、九州におけるタイリクバラタナゴ(中国大陸由来)とニッポンバラタナゴ(在来)の亜種間交雑、愛媛県におけるアブラボテ(九州由来)とヤリタナゴ(在来)の種間交雑などが報告されている。今回、演者らは、菊池川中流域において、環境省レッドリストに記載されているカゼトゲタナゴ(絶滅危惧ⅠA類)とアブラボテ(準絶滅危惧)の交雑が疑われる個体を確認した。また、ヤリタナゴ(準絶滅危惧)とアブラボテの種間交雑が疑われる個体も同じ地域で確認している。本研究ではこれらの個体について報告する。
 これらの個体の計数形質を含む形態的特徴とmtDNA解析による遺伝的特徴を検討した結果、いずれも両親種の中間的な特徴をもつことが示された。さらに、核DNAのS7領域における塩基配列の変異を利用し、各3種に種特異的なプライマーを開発した。これらを用いてPCRを行うことで、増幅の有無から、ホモ・ヘテロを判断することができるようになり、中間的な特徴を示した個体がいずれも種間交雑であることが確認された。また、mtDNA解析によって得られた塩基配列から系統樹を作成した結果、上述した種間交雑個体は九州在来のハプロタイプを持っていることが明らかとなり、在来種間で交雑が生じていると推定された。なぜ、在来希少種間で種間交雑が発生しているのか?現在、演者らは、環境改変によるタナゴ類の分布の変化、産卵基質として用いる淡水二枚貝の生息状況悪化などが関連していると考えている。今後、これらのタナゴ類を保全するためにも、交雑の発生原因を解明することが求められる。


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