| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-499 (Poster presentation)
関東平野の台地の辺縁に発達する小規模な谷は谷津と呼ばれ、その奥部で湧出する地下水を利用し、かつては水田稲作が行われると同時に、多様な生物の生息環境が維持されてきた。しかし台地上の都市化などに伴い、湧水の減少や枯渇が進行している。湧水の存在は現地調査によって把握することができるが、それが長期間維持されているかどうかについては1度の調査では把握できない。オニヤンマは幼虫期に流水を専ら利用する昆虫であり、千葉県内の谷津の水路にも分布している。幼虫期間は約5年と長いため、安定した湧水の指標となると考えられる。本研究では千葉県北部の谷津を対象に、オニヤンマの分布に影響する主要な要因を明らかにすることを目的とした。
印旛沼流域の谷津の谷頭部全37か所を調査してオニヤンマの分布と環境条件を調べる広域調査と、特定の谷津内の水路間で分布と環境条件を調べるハビタット調査を行った。
広域調査の結果、台地上の土地利用が畑や樹林だったとしても、谷津の谷頭部にコンクリート排水路が設置してあることや、谷底面の土地利用によってはオニヤンマの分布は困難になることが示唆された。広域調査の結果に対するパス解析によって、ザリガニの存在がオニヤンマのCPUE(単位努力量あたりの捕獲個体数)に対して最も負の影響を与えていることが分かった。ハビタット調査ではAB2本の水路を対象とした。水路Aでは平均8.5匹のアメリカザリガニが採取できたが、オニヤンマは1個体も採取されなかった。水路Bでは平均1.75匹のオニヤンマが採取できたが、アメリカザリガニは4つのコドラートのうち1匹しか採取できなかった。水路Bは砂が堆積し湧水由来の水が流れ、アメリカザリガニの密度が小さいことから、オニヤンマの生息環境条件を満たしていたと考えられる。このことから、オニヤンマは「湧水が豊かで水がよく流れる水路」の指標種となりうることが明らかになった。