| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-500 (Poster presentation)
日本人は、古来より虫の声から日々の生活を楽しんでおり、絵画や文学などにもその要素を取り込んできた。先行研究では、虫の声は人間にとって心地よい音成分が含むことが示唆されている。鳴く虫、特にバッタ目昆虫にとって重要な生息環境である草原は、生活や農業の変化、住宅開発などに伴い全国的に減少している。残された草原を有効的に活用するためには、草原のもたらす生態系サービスを総合的に評価することが重要である。本研究では、草原で様々な昆虫が鳴くことは、人の心理に寄与する生態系サービスになりうるという仮説の検証を行った。
研究方法としては、千葉ニュータウンの草原に生息する虫の声を再現したエンマコオロギ、カンタン、キンヒバリ、スズムシの4種の音源をランダムに組み合わせて用いた。実験は、評価対象の印象やイメージを測定するSD法によるアンケート調査で行い、虫の声40秒、無音時間20秒の計60秒の間でSD評価用紙に回答してもらった。アンケート項目は、10対の形容詞対と好みに関する質問など全12項目を7件法で行い、回答の段階に点数を対応させ、数的処理が行えるようにした。実験の最後には、個人属性を把握するためのアンケートを行った。
本研究の結果より、好みに関する質問における種数間の比較を行ったところ、種数が増加すると得点が増加する傾向が認められた。4種を組み合わせて聞かせたときは、期待値(各種1種ずつ聞いたときを組み合わせた平均値)以上の得点が得られ、多様性効果が確認された。属性による比較では、アウトドア派の人ほど虫の声に対して好意的な印象をもつ傾向が認められた。以上のことから、多様な昆虫の鳴き声が聞こえることは人間に対して正の効果を持つことが確認できた。身近な生物多様性の高い草原の保全をし、自然体験を積極的に行うことで、生態系サービスの中でも文化的なサービスをより効果的に受けることが可能になると考えられる。