| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-506 (Poster presentation)
兵庫県豊岡市では、湿地生態系の頂点捕食者であるコウノトリCiconia boycianaの野生復帰事業が展開されている。この事業の一環として、彼らの餌場にもなる休耕田などを活用した水田ビオトープの設置も市内各地で進められている。本研究では、水田ビオトープ内の上位捕食者であるゲンゴロウ類に着目し、ビオトープスケール、コドラート(小区画)スケールという二つの空間スケールで生息要因の解析を試みた。
調査地として、兵庫県立コウノトリの郷公園内に存在する水田ビオトープを合計10枚無作為に選定した。ここでは、野生のコウノトリの採餌行動が目撃されている。水田ビオトープ1枚につき、無作為に8箇所のコドラートを水際に設けた。 このコドラートにおいて、35cm幅、1mm目のタモ網で、畔際に向かって水中を3回連続して重ならないように素早く掬い取りした。なお、調査期間は2017年6-9月であり、各月に調査を1回ずつ行った。
調査の結果、9分類群のゲンゴロウ科成虫が確認された。上記の各スケールにおけるGLMの結果、ビオトープスケールでは、ゲンゴロウ科成虫の個体数には水田ビオトープの面積が負に、水深が正に寄与した。コドラートスケールでは、水深または植生高に正の効果が確認された。ゲンゴロウ科成虫は、水際近くの浅場に小型種が多く、やや深く浮葉植物や抽水植物の生える部分には、比較的大型の種類が生息している(森ほか 2002)。一方で、本研究結果では、水生植物の植生高、水際の水深によって、ゲンゴロウ科成虫の生息要因が特に規定されやすいことが示唆された。発表では、コウノトリの餌場として設置された水田ビオトープが、希少ゲンゴロウ類の生息場としてどのような効果を与えているのか、具体的な各分類群や月変化を考慮しながら考察したい。