| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-028 (Poster presentation)
菌類の群集構造は,植生タイプの違いや非生物環境要因(土壌化学組成など)に影響を受けることが知られている.植物の種数や種組成が異なる植生が成立,併存する知床半島では,過剰発生したエゾシカの採食によって防鹿柵の内と外で植生の変化が報告され,菌類の群集構造に対する影響が予想される.本研究では,知床半島の3タイプの植生における防鹿柵の内外で,菌類子実体の種数および種組成と環境要因の関係を評価することを目的とした.2013年5月下旬,知床国立公園内のカラマツ林,針広混交植林,天然林の3植生タイプに設置された防鹿柵の内と外において,合計286点の菌類子実体を記録し,子実体の形態観察とDNAバーコーディングによる塩基配列の決定で菌類の種同定を行った.
分類群が判明した186点の菌類の種数は,カラマツ林で13種,針広混交植林で49種,天然林で41種であった.菌類の種数は植生タイプ間で有意な差が認められ(GLM, deviance = 38.30, P < 0.001),加えて,土壌pHの増加に伴って有意に減少した(GLM, deviance = 6.59, P < 0.05).一方,菌類の種組成は植生タイプ間で有意に異なり(PERMANOVA, P < 0.001),菌類の種組成に対して土壌の環境要因および植物種数の関連が示された.しかし,菌類の種数および種組成に対して防鹿柵の有無で有意な影響は認められなかった.また,機能群(分解菌および共生菌)が判明した菌類について植生タイプの違いで分布を評価すると,針広混交植林で共生菌,天然林で分解菌が優占的な傾向が認められた.この結果は,針広混交植林で共生菌と共生関係にある植物種が生育していること,天然林で分解菌による落葉および樹木の分解が活発であることが考えられる.そのため,知床半島における生態系の循環プロセスに対して,菌類と植物間の栄養分の授受や分解の役割が大きく影響していることが示唆された.