| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-029 (Poster presentation)
外生菌根菌(以下、菌根菌)は森林の優占的な樹木と共生している。菌根菌の群集構造には宿主の樹種や気候・土壌条件などの環境要因、空間距離などが影響することが明らかにされており、近年の研究では、特定の林分や宿主種を対象にこれら複数の要因の相対的な重要性が評価されている。
ここで、分布する気候帯や地理構造は宿主植物により異なるため、菌根菌の群集構造に対する気候・土壌・空間の相対的な影響力は宿主により変化することが予想される。しかし、宿主によるこれら複数の要因の相対影響力の変化に関しては知見が限られている。そこで、本研究では異なる気候帯の宿主2種の間で菌根菌の群集構造とそれに関わる要因を評価・比較することで、宿主の気候帯や地理構造の違いが菌根菌の群集構造に影響するかを調査することとした。
今回用いた宿主はブナ科のブナ(Fagus crenata)とスダジイ(Castanopsis sieboldii)である。ブナは北海道から鹿児島まで、主に冷温帯林に分布する一方、スダジイは国内では新潟県から沖縄県までの温帯~亜熱帯林に分布している。調査地はこれらの分布をカバーするよう、ブナ林16地点、スダジイ林12地点を選定した。各地点で対象宿主種の根を含む土壌ブロックを採取し、その中から外生菌根を選び出し、Roche454シーケンサーを用いて菌類rDNAのITS1領域の塩基配列を決定した。得られた配列は97%の相同性閾値で操作的分類群(OTU)にわけ、データベースとの照合により分類群を決定した。
菌根菌は28地点で合計479 OTU得られ、得られた菌根菌の群集組成は宿主間で異なっていた。地点間での菌根菌の群集構造の違いに対する環境・空間要因の影響を解析したところ、シイ林の群集は土壌と空間距離により合計15.9%が説明され、気候の影響は検出されなかった。一方ブナ林では気候・空間・土壌条件で合計16.2%が説明され、気候の説明力が最も高かった。ここから、これら2種の宿主間で菌根菌群集が異なる要因に応答している可能性が示された。