| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-031 (Poster presentation)
森林生態系の多様性の維持メカニズムの一つとして、樹木の実生定着における菌根菌や病原菌類の重要性が注目されている。例えば、アーバスキュラ菌根性(AM)の樹種は、同種成木下では特異的に感染する病原菌の働きにより実生の死亡率が高く、互いに離れた場所で単木的に生育する。一方、外生菌根性(ECM)の樹種は同種成木下で実生死亡率が低く、優占種となる。しかし、菌根及び病原菌類が野外で樹木実生の定着に及ぼす影響は十分に解明されていない。2015-2017年、東北大学川渡フィールドセンター内の二次林でAMタイプ 3樹種(ウワミズザクラ、ミズキ、イタヤカエデ)とECMタイプ 2樹種(ブナ、ミズナラ)を用いて野外交互播種試験が行われた。その結果、実生の死亡及び生育は樹種の菌根タイプ間で異なること(佐々木ら第65回生態学会発表)、菌根菌の感染が死亡の抑制及び生育促進に関与したこと(古賀ら第66回生態学会発表)が示唆された。本研究は、同試験において実生の定着パターンが異なった処理区の土壌中の菌類相を明らかにすることで、菌根及び病原菌類群集の違いが樹木の実生定着に影響を及ぼす可能性を検討した。試験は、5樹種の成木下で2条件の光環境を3反復設定した全30地点で行われた。各地点で播種枠の周辺3地点から土壌コアサンプル(直径5cm×深さ5cm)を採取し、菌群集のDNAを抽出した。その後、ITS領域を対象としてPCR増幅して次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)で塩基配列を決定し、Claident v.0.2を用いてOTU解析を行った。土壌から検出された菌類群集の組成は、光環境に関わらず近傍の成木樹種によって異なった。特に、ECM菌と植物病原菌類の組成は、周辺樹種の菌根タイプに基づく割合と関係することが示された。すなわち、野外の森林では土壌に潜在する菌根及び病原菌類の組成が周辺植生に応じて異なっており、それらの菌類の感染が実生の生存や生育に影響を及ぼした可能性が示された。