| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-045 (Poster presentation)
生物多様性喪失が危惧される熱帯林では、これまで、樹木の種多様性や組成に及ぼす森林伐採の影響が詳しく調べられてきた。しかし、景観レベルでの種多様性を規定する「種組成の空間構造」に及ぼす伐採影響は調べられた例がほとんどない。森林の種組成は、散布制限やハビタット分割の影響によりしばしば空間的に偏る。例えば、ある場所の種組成とその近くの種組成は似る(任意の2地点間の種組成の類似度は、互いの距離が離れるほど低下する)。一方、伐採はギャップ、様々な遷移段階にある更新パッチ、撹乱影響の少ない残存パッチから成るモザイク構造を作りだす。2地点間の組成類似度は、更新パッチ(少数の限られたパイオニア種が優占)間であれば高いが、残存パッチ(遷移後期種が優占)と更新パッチ間であれば低くなる。このように伐採は、種組成類似度のばらつきを大きくし、距離依存的な空間構造を改変する可能性がある。
本研究は、ボルネオ島サバ州の熱帯林において、択伐が樹種組成の空間構造に及ぼす影響を調べた。強度伐採林~原生林に0.12 haプロットを100個、2プロット間の距離を0.2-40kmとして設置した。0.2km以下のスケールに対処するため、2haプロットを一つずつ原生林、低インパクト伐採林、強度伐採林に設置し、その中を15個の0.12 haコドラートに分割した。
2プロットあるいは2コドラート間の種組成類似度の距離依存性を調べた結果、どちらの場合も、原生林と弱度伐採林において組成類似度は互いの距離が離れるほど低下した。しかし、どちらの場合も、強度伐採林ではこうした距離依存的パターンは見られず、組成類似度のばらつきは大きくなった。このように伐採は、ランダムな植生パッチ形成を通して、距離依存的な種組成の空間構造を消失させることが分かった。