| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-052 (Poster presentation)
ツキノワグマの人里への出没が増加しており、人との間に軋轢が生じている。どのような場所でクマの出没が多いのか明らかにすることは、人身被害リスク管理を検討するうえで重要であり、その際に人とクマが遭遇したことを示す目撃情報を活用できる可能性がある。ただし、人の目撃に依存する情報には社会要因に関連するバイアスが存在する可能性も考えられる。本研究では、クマの目撃情報を得られた地点と環境・社会要因の関係を明らかにすることを目的とした。
山形県内で収集された2017年および2018年におけるクマの目撃ならびに人身被害に関する情報498件を目撃地点として利用した。この目撃地点(1)とランダムに発生させた地点(0)を環境・社会要因で説明する一般化線形混合モデルを構築した。説明変数には、環境要因として森林からの距離、住宅地からの距離、農地からの距離、河川からの距離、植林率、耕作放棄地面積、社会要因として人口、高齢化率、人口減少率、小学校からの距離、クマの分布の有無を使用し、ランダム変数には年ごとの旧市町村名を用いた。環境要因については、季節ごとに異なる係数を推定するようにした。
解析の結果、住宅地と森林に近い場所は季節に関わらず目撃されやすい傾向があった。また、河川に近い場所では夏から秋に、植林地の多い場所では秋に目撃されやすかった。これらはクマの生息地利用と人の生活の場の間で、人とクマ遭遇しやすい場所を反映していると考えられる。社会要因については、人口や人口減少率が低い場所で目撃情報されやすい傾向があり、人口動態はクマの出没や目撃情報の報告に影響を与えている可能性が示された。また、小学校に近い場所で目撃されやすく、これは子供の安全を考える保護者からの通報が多いことを示しているかもしれない。これらの結果から、環境要因と社会要因の両方がクマの目撃情報と関係していることが示唆された。