| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-054 (Poster presentation)
これまで様々な生態系サービスの供給を最大化するための生態系管理や政策について議論が行われてきたが、一方で個々のサービスの供給を最大化する取り組みが他のサービスの供給を減少させうることが指摘されている。そのため、生態系サービスの多面的な供給を最大化するためには、サービス間のトレードオフ・シナジーを明らかにする必要がある。本研究では、日本国内における複数の生態系サービスを対象にトレードオフ・シナジーの評価を行なった。特に、その空間分布に影響する要因として空間スケールと地域性に着目した。
対象は供給サービスとして木材材積(スギ、ヒノキ、カラマツ)、農作物生産量(水稲、レタス)、調整サービスとして生態系純生産(NEP)、文化サービスとして教育(野外学習)、レクリエーション(登山、キャンプ)の計9サービスとした。サービスの値は、自然・社会環境データ等を用いたモデルによる推定値を用いた。離島を除いた日本全国の陸地を1, 5, 10 km四方のグリッドに分割し、各グリッドにサービス値を割り当てた。解析はスピアマンの順位相関係数、主成分分析およびk-means法によるクラスター分析を行なった。それぞれの解析についてグリッドのスケール、および地域(全国、北日本、東日本、西日本)による影響を調べた。
多くのサービス間においてスケール依存性が見られ、木材と水稲ではグリッドサイズが大きくなるとトレードオフからシナジーへと関係が逆転した。地域性も多くのサービスにおいて検出され、水稲とキャンプでは北日本ではシナジー、東日本ではトレードオフと関係が逆転した。主成分分析およびクラスター分析では文化サービス間のシナジーとスギ・ヒノキ・NEP間のシナジーが検出されたが、水稲、レタス、カラマツは他のサービスとの結びつきが弱かった。
本研究ではトレードオフ・シナジー関係にあるサービスを示すとともに、空間スケールや地域性を考慮した評価の必要性を示した。