| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-056 (Poster presentation)
食物資源の分布様式は、野生動物の生息地選択に大きな影響を与えるといわれている。近年のツキノワグマによる人里への出没増加も、人里周辺に出現する良好な食物が駆動要因となっている可能性がある。
長野県中央アルプス地域でのこれまでの生息地研究から、クマの人里周辺利用が夏季に集中していることが判明した。そこで本研究ではクマの夏季の主要な果実食を支える液果・堅果類の樹種6種を選定し、それらの樹木が同地域の人里周辺のどのような場所に集中分布しているかを探った。これらの樹種の開花は際立ち発見しやすいため、春先に現地踏査しハンディGPSにより立木の出現地点データを収集した。
2014-15年の間に合計1303地点データを取得し、そのうちの1/5が耕作放棄地内に出現していた。初夏に結実するキイチゴ・サクラ類は、晩夏に結実するオニグルミ・クリに比べ、より高い集中分布を示した。樹種ごとに空間自己相関が認められる範囲を推定し、その範囲内に存在する立木密度を求め応答変数とし、直線回帰で植生被覆多様度・林齢・林縁からの距離・地形起伏度・土壌水分量・人里からの距離などが、樹木分布の集中度に与える影響を推定した。その結果、クリについてはより人里に近い場所、オニグルミは若い林や林縁近くに、ウワミズザクラはより平坦な場所、ミズキは人工林の中のより土壌湿度の高い場所に集中分布する傾向が認められた。
山地帯に比べて低標高に位置する人里周辺は、比較的温暖でかつ傾斜も緩やかであり、水や土壌に恵まれ生産性の高い場所である。そのような場所で人間活動の減退が起これば、野生動物はそこにより豊富に出現する食物資源を利用するだろう。ツキノワグマの夏季の食物の多くは先駆樹種の果実であり、本研究によって管理放棄されて間もない農地や林地が、新たなクマの夏の生息地になっている可能性が示唆された。