| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-060 (Poster presentation)
キタゴヨウが山地尾根部に列生する様子が各所でみられる福島県只見町では、かつてその材が民家に利用されていた。本研究では、中山間地域における森林利用に関する伝統的生態学的知識の解明および継承のため、キタゴヨウの用材としての利用実態とその供給源となったキタゴヨウ林の維持過程を明らかにすることを目的とし、古民家の使用木材種の同定、現在のキタゴヨウ林の森林構造調査、古民家所有者への聞き取り調査を行った。
同町内の古民家(江戸後期〜昭和中期築)7棟の主要部材から採取した木片の細胞組織を観察し樹種を同定した結果、全9樹種あったうちキタゴヨウは材積割合で59.0%と最多を占めた。
尾根筋上に設置した帯状調査区(幅10m×120m)において毎木調査を行った結果、キタゴヨウは現在、相対胸高断面積が60.5%で、サイズのレンジは樹高および直径ともに広く、小径木が下層に比較的多数存在していた。このことは、多くの後継樹が自然に更新していることを示唆する。また、調査区内19本(うちキタゴヨウ16本)の幹から採取した成長錐コアの解析から、林齢は概ね130〜150年生と推察された。肥大成長量は平均的にみると1970年頃以降、鈍化傾向にあった。これは、かつては適度に利用間伐がなされることで林内の陽光環境が良好に保たれていたのが、高度経済成長期以降ほとんど利用されなくなったことで、高木が以前より混み合い被陰が進んできていることによるものと考えられる。
聞き取り調査からは(計53件)、キタゴヨウが民家に使われているという住民の認識は比較的高いことがわかった。また、建材は近くの山林から「元木」や「元山」と呼ばれる職人により適材が伐り出され、それらは川や雪上を利用して運搬されていたという回答がいくらか得られた。
以上から、当該キタゴヨウ林では、100〜150年生程度の大径木の適度な利用間伐が後継樹の定着と更新を促し、このことが林分の持続的利用を可能にしていたと推察された。