| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-061 (Poster presentation)
福井県においては,嶺南地域の三方湖周辺では,花粉分析によって最終氷期以降の詳細な植生史が解明されてきた(安田,1980; Takahara & Takeoka, 1992など)。一方,県北東部の嶺北地域では,植生史に関する資料は少ない状況にある。嶺北に位置する六呂師高原の池ヶ原湿原には1m以上の泥炭が堆積していることが,福井県自然保護センターの調査で明らかにされてきた。そこで,本研究では,2017年に池ヶ原湿原において採取した堆積物の花粉分析の結果について報告する。池ヶ原湿原は標高609 mに位置し,周辺は奥越高原牧場として牧畜等に利用されている。湿原中心部はオオミズゴケに被われ,その周辺はヨシ,ハンノキが優勢で,多くの湿地性植物が繁茂している。オオミズゴケに被われた中央部においてボーリングを行い,深度593 cmまで堆積物を採取することができた。堆積物は主に泥炭と有機質粘土からなっているが,深度425〜455 cmには約30000年前(Smith et al., 2013)の南九州の姶良カルデラの噴火がもたらした姶良Tn火山灰(AT)が堆積していた。採取した堆積物の最下部の年代は現在のところ不明であるが,AT層準以下に有機質堆積物が1m以上堆積しており,MIS 3期(約6万年前〜3万年前)の後半に相当している可能性がある。花粉分析の結果,明らかになった植生変遷は以下のとおりである。 3万年前以前:コナラ亜属,ブナなどの落葉広葉樹が優占し,ツガ属,モミ属などのマツ科針葉樹やスギが伴う植生,3万年〜約1.5万年前:モミ属,トウヒ属,ツガ属,マツ属(五葉型)のマツ科針葉樹とカバノキ属の優勢な植生,1.5万年前以降:ブナ,コナラ亜属などの落葉広葉樹の優勢な植生。三方低地などの嶺南地域では後氷期にスギが急増するが,嶺北の六呂師高原ではスギの増加は認められなかった。