| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-065  (Poster presentation)

逃避中にショウリョウバッタのオスが出すキチキチ音は同種他個体に影響するか
Does the crepitation sound produced by the male grasshopper Acrida cinerea during escape affect its conspecifics?

*久我立, 粕谷英一(九州大学)
*Tatsuru Kuga, Eiiti Kasuya(Kyushu Univ.)

捕食者が接近してきたとき、大きな音や動き、派手な色の提示といった目立つ行動を伴って逃避する被食者が、様々な動物で観察されている。目立つ行動は一見すると捕食者の注目を集め、逃避を困難にするように思われる。そのため、目立つ行動には何か機能があり、単独生活する被食者の場合、それは捕食者に作用して捕食リスクを下げることと考えられてきた。ただし、捕食者への作用を調べる実証研究は困難であり、目立つ逃避の機能については未解明な点が多い。そこで、演者らは人が近づくとキチキチと音を出しながら飛翔によって逃避するショウリョウバッタに着目し、キチキチ音の機能の解明に取り組んでいる。飛翔時に音を出すことはショウリョウバッタ以外のバッタでも知られているが、その機能に関する記述は捕食回避ではなく、種内の相互作用(求愛や闘争)に関するものであった。ただし、これらはいずれも野外での行動観察であり、音に対する同種の反応を直接示してはいなかった。本研究ではキチキチ音が同種他個体に影響するかを調べるため、録音したキチキチ音を再生するプレイバック実験を2018年に行った。
 キチキチ音を出すオス成虫が発生する8月上旬に野外で録音を行い、8月下旬から10月上旬に室内でプレイバック実験を行った。プレイバック用の音源は野外で録音したキチキチ音に加え、対照実験のために無音を用意した。これらの音源のいずれか1つを10分間再生させ、その反応を動画に記録した。結果、キチキチ音処理と無音処理の間で、1分ごとのスピーカーとの平均距離や、動いている時間に顕著な差はみられなかった。この結果はオス、メスともに共通していた。
 実験用のキチキチ音は44.1 kHzのサンプリング周波数で録音された。本研究結果は、少なくとも上限22.05 kHzまでの周波数帯域では、キチキチ音が同種のオスやメスに影響しないことを示唆している。


日本生態学会