| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-068 (Poster presentation)
右利き・左利きは多くの動物で認められ、精巧で力強い運動に必要でありながら、その分子遺伝基盤の理解は驚くほど進んでおらず、長い間謎とされていた。タンガニイカ湖の鱗食性シクリッド科魚類Perissodus microlepisは、ヒトの利き手に相当する明確な左右性を示す。彼らは口部形態が非対称で、左顎の大きな「左利き」は獲物の左体側を、右顎の大きな「右利き」は右体側の鱗を好んで狙う。鱗食魚は利き側でのみ最大のキネティスを発揮することから、右利きと左利きの脳神経系は、互いに鏡像関係にあると十分に想定される(Takeuchi et al. 2012, 2017)。それに加えて、脳の左右差も脊椎動物を通じて保存された形質であり、魚類では間脳の手綱核の左右差が有名であるが、それ以外の脳領域ではほとんど研究が進んでいない。本研究では、鱗食魚脳において利きの発現に関与する遺伝子群と脳の左右差に関わる遺伝子群のスクリーニングを試みた。すなわち、機能的に左右差が想定される脳部位3カ所(運動中枢の「後脳」、視覚中枢の「視蓋」、記憶や高次機能を担う「終脳」)の左右半脳からRNAを抽出してRNA-seqを行った。
網羅的遺伝子解析の結果、左右半球の間で有意に発現量の異なる5つの遺伝子(pkd1b、ntn1b、ansn、pde6g、rbp4l1)を見いだした。 pkd1bおよびntn1bは、それぞれNodal遺伝子とNetrin遺伝子に関係し、それらは初期胚における身体の左右非対称の形成にとって必須であることが知られている。私たちの結果は、Nodal遺伝子やNetrin遺伝子が成魚の脳においても、左右差の維持に重要な役割を果たすことを示唆している。一方で、調べたどの脳領域においても、左利きと右利きで発現量の異なる遺伝子は検出されず、鱗食魚の利きは、脳内遺伝子の単なる左右非対称性の逆転に起因しないことが考えられた(Takeuchi et al., Comp. Biochem. Physiol. D 2018)。