| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-069 (Poster presentation)
局所的に配偶を行う生物は、局所集団内で産卵する母親数が少ないときは、息子どうしの配偶競争を避けるように雌に偏った性比で子を生産する(局所的配偶競争理論)。実際に寄生バチの仲間は、同じ寄主に産卵する母バチが少ないときほど性比が雌に偏ることが知られている。さらに、寄生バチMelittobiaでは、野外集団の遺伝マーカーを用いた解析によると、母親数だけでなく局所集団内の血縁関係によっても性比が変化し、同じ寄主から羽化した個体の平均血縁度が高くなるほど性比が雌に偏ることが確認された。すなわち、母親は自身の息子だけでなく、血縁のある息子どうしの競争を避けるように性比を雌に偏らせていると考えられる。
では、Melittobiaの雌は、一緒に産卵する別の雌との血縁度をどのようにして認識して性比を調節しているのであろうか?2頭の母親間の血縁度を変化させ、子の性比を測定する室内実験を行った。単独もしくは少数の雌から創設し、系統内での交配を繰り返すことにより維持した3つの室内系統を用いた。その内2系統は、神奈川県内の同じ個体群から採集した雌から創設したが創設雌間に血縁関係がないもの、もう1つはこれらと遺伝的交流がないと考えられる奄美大島から採集した系統を使用した。2頭の雌の血縁関係を、(1)同じ系統内、(2)同じ個体群内、(3)別の個体群間と変化させて産卵させたが、血縁関係によって性比は変化しなかった。また、本実験において、産卵している母親どうしの闘争行動が副次的に確認されたが、闘争の頻度は血縁関係に依存しなかった。本結果は、Melittobiaの雌どうしは、血縁を直接認識することはできないことを示している。野外集団で確認された性比と血縁度との相関には、雌が分散距離などをもとに間接的に血縁を推定している可能性が示唆された。