| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-083 (Poster presentation)
捕食は、一般的に大きい捕食者と小さい餌の間で起こることから、両者の体サイズ比率が捕食関係の重要な要素であると考えられている。砂で筒型の可携巣を作るフトヒゲトビケラ科に属するヨツメトビケラとフタスジキソトビケラの幼虫は、共食い・ギルド内捕食を行う生態的に似通った近縁2種であるが、ヨツメはフタスジキソよりも乾重量で4倍ほど体サイズが大きい。これまでのフタスジキソの共食いに関する研究から、大きい個体(巨人)が小さい個体(小人)を共食いするが、相手が小さすぎると巣に侵入できず、餌サイズに下限が存在することが分かっている。よって、より体サイズが大きく成熟するヨツメでは、フタスジキソよりも顕著な餌サイズ下限があると予測された。そこで、巨人ヨツメ(5齢)と小人フタスジキソ(1齢)を同所させる室内飼育実験を行った。その結果、予測に反して、小人フタスジキソは巨人ヨツメに侵入されないサイズの巣を持つにも関わらず2週間で全て捕食された。そこで同所する両者間の捕食の様子を30分観察したところ、巨人ヨツメは小人餌サイズが非常に小さい場合には、巣を噛み砕き捕食することが分かった。このようなヨツメの捕食様式は、大きい成熟サイズに応じた強い顎の力を持つためだと考えられる。また、巨人ヨツメと小人ヨツメを同所させたところ、小人ヨツメは巨人ヨツメからの攻撃刺激を受けると、巣を破棄して逃げる行動が頻繁に観察された。フタスジキソではこのような破棄行動は見られず、巣内に引きこもり続ける。以上の結果から、巣を破壊して共食いする様式に対しては、巣を破棄して逃げる行動が適応的である(ヨツメ)のに対して、巣に侵入して共食いする様式に対しては、巣に引きこもる行動が適応的である(フタスジキソ)ことが示唆された。2種間の捕食・対捕食行動の違いは、さらに個体群動態や群集安定性にも影響を与えることが予測される。