| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-084 (Poster presentation)
捕食者の非消費効果(捕食者がいるだけで影響があること)には、繁殖行動などへの短期的な影響と、成長や生残などへの長期的な影響が確認されている。遺伝子発現機構には行動や生理活動よりも早く非消費効果が表れると考えられるが、非モデル生物を扱った研究例はほとんどない。本研究では、非モデル生物であるテナガツノヤドカリの遺伝子発現機構への非消費者効果を明らかにすることを目的とした。テナガツノヤドカリとその捕食者であるイシガニを用いた飼育実験を行い、捕食者のいない水槽と捕食者のいる水槽(捕食はされない)で別々の個体を一定期間飼育後、DNA/RNAシーケンスによるリファレンス配列の作成と発現量解析を行った。近縁種、対象種のテナガツノヤドカリのRNA-seqデータおよびテナガツノヤドカリのDNA-seqデータについて、リファレンス配列を作成し、配列の長さや正確性の比較を行った結果、テナガツノヤドカリRNA-seqデータから作製した配列が比較的長く、正確性も高かった。よってこれをリファレンスとして発現量を解析したところ、コントロールよりも捕食者のいる条件下において発現量が増加している遺伝子あるいはその一部が多くみられた。また発現変動を示した遺伝子にはcollagenやcuticleなど生体に必須のタンパク形成に関連するものや節足動物に特有の遺伝子の一部が含まれていた。飼育実験ではコントロールと捕食者のいる条件下では脱皮した個体数に差はなかったが、collagenやcuticleは脱皮にも深く関連しており、遺伝子発現レベルにおいては迅速に捕食者の非消費効果が表れたものと考えられる。なお本研究は、文部科学省「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」平成29年および30年度連携型共同研究助成の支援を受けて行った。