| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-090 (Poster presentation)
動物は繁殖において自種を他種と区別する必要があるため、種を認知するメカニズムを持っている。多くの小鳥類ではさえずりによる種認知が行われる。さえずりの似た他種が同所的に分布している場合と分布していない場合とでは、どの程度厳密に自種と他種を区別するかの基準が異なるのではないか。この疑問に答えるために、種認知の基準の厳密さを調べた。材料は南西諸島のヤマガラである。調査地は、ヤマガラとさえずりが似た近縁のシジュウカラが同所的に生息する3つの島と九州本土、及びシジュウカラが生息しない3つの島とした。ヤマガラ雄に対して、自種(自らの個体群)のヤマガラのさえずりとシジュウカラのさえずりを再生して反応を比較し、シジュウカラをどの程度明確に区別するかを調べた。再生したヤマガラとシジュウカラの音声の差異が反応の強さに関わっている可能性があるため、音源としたヤマガラ7個体群、シジュウカラ4個体群それぞれのさえずりの音響学的特性を調べた。自種のさえずりを再生すると、ヤマガラの雄はスピーカーに近づき、その近くにとどまった。そして、シジュウカラが同所的に生息する調査地のヤマガラはシジュウカラのさえずりにほとんど反応せず明確に区別したが、シジュウカラが生息しない調査地のヤマガラはシジュウカラの音声にも弱く反応し、区別が不明確であった。シジュウカラのさえずりに反応する程度は、再生した両種のさえずりの音響学的特性の差異とは相関が見られなかった。これらの結果は、ヤマガラはシジュウカラが同所的に生息していると種の認知を厳密に、分布していないと緩やかに行うことを示している。これは、生得的にもつ、自種のさえずりを認知する際の「鋳型」の厳密さが異なることによる可能性がある。一方、シジュウカラが生息する地域ではヤマガラがシジュウカラと出会う経験を通して学習し、種認知を厳密に行っていることも考えられる。