| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-091 (Poster presentation)
雌の配偶者選択の変異性は、性淘汰の強度やその方向性に影響を及ぼす重要な要素と考えられている。配偶者選択性の変異をもたらす要因は捕食圧などいくつか知られているが、雌間競争が雌の配偶者選択性にどのように影響を及ぼすのかは未だ不明な点が多い。ハゼ科ヨシノボリ属魚類の一種クロダハゼは、雌よりも雄の方が体サイズが大きく、また背鰭が伸長するという性的二形を持ち、雄が巣内で卵保護を行う。今回、本種を材料に、雌間競争が雌の配偶者選択性に及ぼす影響について、同性の競争者の在/不在を操作した水槽実験により調べた。その結果、他雌不在の状況では全ての雌が48時間以内に雄と配偶したが、他雌在の状況では48時間以内に産卵した雌は全体の60%程度に留まった。この結果から、他雌の存在は雌が配偶者を決定するまでにかける時間に影響を及ぼすことが示唆される。また、他雌不在の状況では、雌は肥満度(体重/体長³;魚類一般で用いられる生理的コンディションの指標)が高い雄と選択的に番った。雄が子育てを行う魚類では、生理的コンディションの良い雄ほど保護能力が高いことが知られており、本種の雌が肥満度に基づく配偶者選択を行うことは合理的である。一方、他雌がいる状況において、雌は体サイズの小さい雄と選択的に配偶した。一般的に、体サイズの大きな雄ほど雄間競争に優位であるため、雄が子育てを行ういくつかの魚類において、雌は卵防衛力の高い大きな雄を選好することが知られているが、今回の結果は雌はむしろ劣位の雄を好むことを意味する。本種の雌にとって他雌がいる状況では、優位雄を選択する利益よりもコスト(配偶時に雌が怪我を負う危険性や優位雄は卵食率が高い等)が上回るのかもしれない。本研究は、クロダハゼにおいて雌間競争が雌の配偶者選択に影響を及ぼすことを示すと共に、配偶者選択の変異性により多様な性的二形が進化する可能性を示唆する。