| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-096 (Poster presentation)
モンゴルに生息するモウコガゼルの大移動は遊動的とされてきたが、本研究チームの衛星追跡により夏季に複数年連続で特定の地域に滞在する集団の存在が示唆された。そこで本研究では、複数年連続で夏季に特定の地域に戻る集団の存在の確認と、その集団の夏季滞在地域では食物資源である植物現存量の年次的予測可能性が高いという仮説の検証を試みた。2016年9月に捕獲したモウコガゼル成獣メス5頭の位置情報と、地形、人為的撹乱指数、正規化植生指数(NDVI)の環境情報から、分布推定モデルを用いて、2017年夏季(6/2–9/21)の生息地選択に対する環境条件の影響を評価した。植物現存量の年次的予測可能性の影響を評価するため、NDVIについては追跡当年(2017年)の値だけでなく過去14年間の標準偏差(SD)も説明変数とした。全ての追跡個体は秋季に約200 km南下し、春季まで南部で滞在後、捕獲地点付近に向かって北上し、夏季を通して捕獲地点付近に滞在した。調査地南部では夏季のNDVI 値が例年低く、植物現存量が小さい状態で予測可能性の高い条件を排除するため、モデル作成地域を夏季の行動圏が位置した調査地北部に限定した。最終的に選択された変数は、6月下旬および8月下旬のNDVIのSD、人為的撹乱指数、7月上旬のNDVI値であり、6月下旬のSDが中程度、8月下旬のSDが低い場所で好適度が高かった。これは出産期(6月下旬)より後の植物現存量の予測可能性が高い場所が夏季の生息地として重要である可能性を示唆する。遊動的な集団だけでなく、特定の場所に戻る季節移動的な集団の存在が確認されたことは、同種内での異なる移動戦略の共存を示唆し、環境条件の年変動が激しい地域に生息する野生動物の移動生態学的に興味深い。また、遊動的だとされている種にとっても植物現存量が好適な状態で年次的に安定した場所が保全上重要である可能性が示された。