| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-111 (Poster presentation)
植物を取りまく環境は標高に沿って大きく変化するため、高標高域と低標高域との間で生態型分化を示す場合が知られている。滋賀県の伊吹山には多年生草本であるアブラナ科ハクサンハタザオの標高生態型が分布する。これまでの研究で、茎葉特異的に高標高型で葉面撥水性が高くなることが示された(Aryal et al., 2018)。茎葉とは、花茎上に生じる葉で、成長の初期には花芽を包んでいる。伊吹山の高標高域では、茎葉が現れる初春において最低気温が0度以下になる冬日の日数が多い。加えて、高標高域ではしばしば霧が発生し、葉の表面を濡らす。濡れた状態で、低温に暴露されることで凍結傷害を受ける可能性がある。このことから、高標高型の茎葉は、高撥水性を介した花芽の凍結防御に働くと考えた。
本研究では、撥水性の標高分化が葉面クチクラの成分の差に起因すると予想し、野外の葉サンプルと室内栽培株の葉サンプルに対し、定性分析(GC×GC/MS:包括的二次元ガスクロマトグラフ質量分析)および定量分析(GC-FID:ガスクロマトグラフィー水素炎イオン化検出)を実施した。加えて、茎葉に包まれた花芽を対象に凍結実験を行った。凍結ダメージの指標として、組織漏出液の電気伝導率を測定した。その結果、高撥水性を示す茎葉はアルカン、特にC31アルカンの量が有意に高いことが明らかになった。また、花芽に対して凍結処理を行う場合に、水をかけた低標高型の花芽でのみ、凍結ダメージが有意に大きいことが示された。そのため、茎葉特異的な高撥水性は、高標高の早春の凍結環境への適応であることが示唆された。