| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-120  (Poster presentation)

マングローブ植物への新たな窒素供給経路の検証―呼吸根通気システムと窒素固定菌
Mangrove aerial roots function as pathways that supply nitrogen to nitrogen fixers in soil

*井上智美(国立環境研究所), 高津文人(国立環境研究所), 下野綾子(東邦大学)
*Tomomi INOUE(NIES), Ayato KOHZU(NIES), Ayako SHIMONO(Toho University)

 マングローブ植物が生育する干潟土壌は、潮汐によるリターの流出が起きるため、低窒素状態になることが多い。この様な場所で旺盛な生育をみせるマングローブ植物はどの様に窒素を獲得しているのだろうか?
 マングローブ植物の根の近傍では高い窒素固定活性が検出されることから、マングローブ植物と窒素固定バクテリアとの間に相利共生関係があることが推察される。ただし、マングローブ土壌は満潮時には冠水する上、窒素ガスの淡水・海水への溶解性は極めて小さいため、窒素固定バクテリアへの水中を介した窒素ガスの供給は、極端に制限されてしまう。そこで、本課題ではマングローブ植物に特徴的な地上根に着目した。マングローブ植物の多くは、根の一部を地上に露出している。よく見ると、露出した根の表面には小さな無数の孔があいており、内部はスポンジ状の空隙になっていて、大気と土中を気相で繋ぐ構造をしている(通気組織)。空気のおよそ8割が窒素であることから、この通気組織がマングローブ植物の根近傍に潜む窒素固定バクテリアへの安定的な窒素供給経路として機能している可能性があると考えた。
 このことを検証するため、野外に生育しているマングローブ植物・ヤエヤマヒルギの地上根に設置したチャンバー内に安定同位体窒素15N2を添加した後、地下部の根を掘り取って、根組織の窒素安定同位体比を計測した。地上根チャンバーに15N2を添加してから2時間後には、地下部の根組織の15N/14N比の増加がみとめられたことから、(i)通気組織内を確かに大気ガスが通じていること、(ii)大気ガスに含まれる窒素が窒素固定バクテリアによって固定されていることが明らかとなった。15N/14N比は根の側根で最も高く、窒素固定バクテリアは側根付近で活発な窒素固定を行っていることが示唆された。この傾向は、アセチレン還元法による窒素固定活性の計測結果とも一致していた。


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