| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-122 (Poster presentation)
森林内から上を見上げると、個々の樹冠の間には隙間が見える。英語ではCrown shynessと呼び、日本語では「樹冠の譲り合い」と呼ぶ。この優しい言葉の響きとは裏腹に、実際には、その隙間は風によって樹冠同士がぶつかりあう軍事境界線と言える。これまでの樹冠の譲り合いに関する研究の多くは、植林地におけるものであり、異なる樹冠形状をもつ種が混交する自然林において、樹冠の譲り合いを評価したものは極めて少ない。本研究では、ヒノキとスダジイが混交する自然林において、樹冠の譲り合いの程度を、ドローン空撮画像を用いて解析した。樹冠の譲り合いの程度は、スダジイ個体間では大きく、ヒノキ個体間ではほとんど見られなかった。またスダジイとヒノキの個体間では中程度であった。スダジイは樹冠の幅が樹高上部で最大になるため、風を強く受け、樹冠の水平方向の動きが大きく、樹冠同士の衝突が激しいことが、樹冠の譲り合いを大きくさせていると考えられる。一方で、ヒノキは、円錐形の樹冠をしており、樹冠幅は中層で最大になり、風を受けても、樹冠の水平方向の動きは限定的であり、そのため樹冠の譲り合いが形成されないと考えられる。進化的に新しい広葉樹は、古い針葉樹に比べて、幅広い樹冠をもち、成長初期において、光競争に強いことが知られているが、そのような樹冠構造は、結果的に、樹冠の譲り合いというコストをもたらしていると考えられる。