| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-137 (Poster presentation)
ビロードムラサキ(Callicarpa kochiana)は、牧野富太郎博士が高知県五台山で発見したシソ科の常緑または落葉低木で、学名に「高知」が含まれる唯一の種である。分布が確認されたのが全国で5県だけという希少種で、環境省のレッドデータリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。一方で、基本的な分布や生態に関する情報もほとんど報告されていない。本研究は、ビロードムラサキの生理生態特性を調査し、近縁種のヤブムラサキとの比較により、本種の最適な保全方法や今後の分布可能性について検討を行った。
調査は高知県五台山の西側斜面山腹部に設定した約1haの調査プロットで行った。プロット内には、ビロードムラサキ372個体、ヤブムラサキ99個体が生育していた。両種について、個体サイズとして樹高と地際から30cm位置の直径を、分布特性として土性、土壌水分含量、土壌CN比、土壌pH・EC、樹冠最上部の葉の受光量(相対PPFD)、花粉媒介者を、生理特性として最大光合成速度、最適光合成温度、葉の窒素濃度、クロロフィル量、耐寒性の指標となるLT50値(50%致死温度)を測定した。
ビロードムラサキはヤブムラサキと比較して、土壌水分含量が高く、明るい場所に生育し、また光合成能力も高かった。LT50値は、前者が−8.9℃、後者が−14.7℃と、ビロードムラサキで低い耐寒性を示した。県内のビロードムラサキの自生地でも、過去30年間の最低気温が−8.9℃を下回る日が記録されておらず、冬季の温度条件はビロードムラサキの分布を決定する重要な要因であると考えられた。他の土壌条件や花粉媒介者に違いは見られないことから、冬場が暖かく、光と土壌水分が適した環境であれば、本種は十分成育可能であり、今後の地球温暖化に伴って分布域が北上する可能性も示唆された。