| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-140 (Poster presentation)
ハワイフトモモはハワイ諸島に広く分布する優占樹種であり、多様な環境に適応して形質が著しく多様化し、適応進化のモデル樹木として注目されている。形質の多様性の中でも、葉トライコーム量の変異は特に顕著であり、本種の適応を理解する上で葉トライコームの生態学的意義の解明は極めて重要である。湿潤地では無毛個体も存在する一方で、乾燥した高標高地ではトライコームが葉重量40%を占める個体も存在する。著者らはこれまで、葉トライコームのガス拡散抵抗・葉温・被食防衛への影響を評価してきた(Part1-4、日本生態学会62-65th)が、乾燥適応への寄与は十分説明できていない。乾燥高地においても霧や夜露、降雨などによって濡れが生じることから、本研究では葉面吸水に注目し、仮説「葉トライコームは葉面吸水を促進することで葉の水分状態を改善し、日中の光合成生産を上昇させる」を検証した。調査はハワイ島マウナロア山麓の標高2000mにおいて優占する有毛個体を対象に行った。採取した葉を用いて、水トレーサーによる蛍光染色を行ったところ、葉トライコームにトレーサーが局在し、葉トライコームが高い親水性を持つことが示唆された。また、重量法とサイクロメーター法により、葉面吸水量と吸水に伴う水ポテンシャルの変化を評価したところ、葉面吸水量は葉トライコームが多い葉ほど多く、葉面吸水により水ポテンシャルは上昇した。こうした葉面吸水が光合成に与える影響を評価するために、現地にて、夜間に濡れが生じない処理をした個体と無処理の個体に対し、枝単位の閉鎖型光合成測定装置を用いて光合成速度の日変化を計測した。結果として、夜間の濡れを阻害処理により、一日当たりの光合成生産は低下した。以上より、ハワイフトモモの葉トライコームによる葉面吸水促進機能は、本種の乾燥適応関わる重要な生態学的意義の一つであることが示唆された。