| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-144 (Poster presentation)
チリ南部にあるナバリノ島の高木種は3種のナンキョクブナ(落葉性のNothofagus antarctica、N. pumilioと常緑性のN. betuloides)にほぼ限定される。それらは、系統学的に近縁である。これらハビタットと生態学的特徴(LMA = leaf mass per area、材密度、年間成長率)を明らかにし、ナバリノ島において森林がどのように更新されているのかを明らかにすることを試みた。また、日本の類似点と相違点を明らかにするために、研究が進展している日本の高木種の更新戦略と比較した。
ナバリノ島における森林構成種はN. pumilioとN. butuloidesであった。また、森林の林床は非常に貧弱で、林床を覆うササや常緑低木が見られなかった。N. antarcticaは森林外の荒れた土地に多く見られた。
常緑性のN. betuloides は厚い葉を持ち暗い林床にも見られることから、耐陰性を有する遷移後期種であることが分かった。落葉性の N. pumilio は薄い葉を持ち、明るい環境での伸長成長速度が大きいため、遷移初期に優占する種であることが分かった。常緑種と落葉種の生態学的特徴及び更新戦略は、日本の樹種と類似していた。一方、日本の落葉樹林林床はササなどが覆っていて、耐陰性のない落葉樹の更新は困難であるが、ナバリノ島の貧弱な林床では落葉樹から落葉樹への更新が可能であることが示唆された。以上の結果より、ナンキョクブナ3種は系統学的には近縁であるが、生態学的には明快な分化をしてきたことが示唆された。
本年度はチリでさらに多くの種の特性を測定すると共に、世界の温帯における森林更新の一般的なメカニズムを明らかにしたいと考えている。
本研究は東京大学のSEELA (Science and Engineering Exchange Program with Latin America)の助成によって行われた。