| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-147 (Poster presentation)
樹木の水利用において、これまで複数の樹種において樹体内の幹や葉に水分を貯留し、この貯留水を利用することにより根からの吸水遅れを緩和している可能性が報告されている。しかし研究の多くは概念モデルや観察に基づいており、実測例は少ない。従って、貯留組織が樹体内のどの器官に存在し、樹木個体の通水性をどのように制御しているかについてはほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、樹体各部の樹液流速度および水輸送の駆動力となる水ポテンシャルの観測から、ヒノキ成木の貯留・通水特性を評価することを目的とした。
調査対象は、滋賀県南部の桐生水文試験地に生育する約60年生のヒノキ個体(樹高約23 m)とした。幹下部(1 m)、幹上部(20 m)および枝(20 m)において、サイクロメータにより水ポテンシャルを測定するとともに、グラニエ法により樹液流速度を測定した。ヒノキ幹上部の水ポテンシャルおよび樹液流速度は、朝方に幹下部に先駆けて変動し始め、夕方は幹下部より早く停止した。また、渦相関法により測定された森林全体の蒸発散速度は、幹上部の水ポテンシャルおよび樹液流速度の変動と比較して、朝方の蒸発散速度の上昇および夕方の低下の方が早く起こっていた。すなわち、ヒノキでは夕方の蒸散停止後に幹および葉に水分を貯留し、翌朝は土壌からの吸水を行う前に樹体内の水分を利用していることが分かった。当日の発表では、土壌水分センサを用いて測定した幹含水量との比較や飽差など周囲の環境条件との関係を調べることにより、ヒノキの水利用に関してさらに考察する。また、同じ桐生水文試験地内に生育している約100年生のヒノキ個体の水利用との比較も行う。