| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-151 (Poster presentation)
常緑針葉樹であるアカマツは冬季にも光合成を行っている。低温環境下である冬季には成長量は小さいので、冬季に吸収された炭素は気温の上昇する春に効率よく新梢を出すために使われていると考えられる。また一方で常緑樹は一年中葉をつけているため、炭素を蓄えずにその時の光合成によって吸収した炭素を使って、新梢を伸ばしている可能性もある。このような樹木内部の炭素動態については、非破壊的に連続的に測定することが難しく、吸収した炭素をいつどれだけ成長に使い、また貯留して炭素欠乏に備えているのか不明な点が多い。そこで本研究は、アカマツによって冬季に吸収された炭素が、どのように蓄えられ、いつどれだけ放出されて行くのかを明らかにすることを目的として、13Cパルスラベリング実験を行った。対象樹木は樹高約20.5mのアカマツであり、2017年12月7日に高濃度の13CO2を2時間半ほど吸収させた。対象木の幹にチャンバーを高さ別に取り付け、放出される二酸化炭素の濃度と安定同位体比をレーザー分光炭素安定同位体計を用いて測定した。12月に吸収された炭素は、呼吸により徐々に放出されていたが、気温が上昇する3月に急速に下方に流下し、呼吸によって放出される様子が観測された。その後、5月下旬から6月にかけて低下した炭素安定同位体比が、6月から再び上昇し、8月にピークを迎え下降していた。このことから、冬季に蓄えた余剰炭素を成長量が鈍化し呼吸量の上昇する夏季にも利用していると考えられた。また幹から放出される炭素安定同位体比は夜間に高く、昼間に低い日変動が見られ、昼間は流下してくる炭素を利用するものの夜間には貯留されている炭素を利用していると考えられた。