| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-158 (Poster presentation)
これまで古気候の再現や植物の生理生態プロセスの理解などを目的として、年輪や葉の酸素安定同位体比が調べられてきた。一方で、種子についてはほとんど研究がなされていない。近年になって、種子の酸素安定同位体比を利用して親植物の場所を特定し、種子の移動分散を評価する手法が開発された。この手法をもちいて数キロメートルを超えるような種子の移動を簡便に推定できる。そのため、植物の分布や遺伝子流動に影響する長距離散布の評価手法として注目されている。また種子の酸素安定同位体比を利用することで、植物が種子生産時にどのような起源の水を利用しているかといった植物の生理生態プロセスもみえてくるかもしれない。
本研究では、ほとんど全容が分かっていない種子の酸素安定同位体比の理解を深めるため、1)サクラ類を対象とした全国サンプリングによる種子の酸素安定同位体比の空間変動要因の特定、2)1サイト(栃木県日光市の日光植物園、標高650m)での複数植物種サンプリングによる種子の酸素安定同位体比の種間比較を行った。
解析の結果、ウワミズザクラでは高標高ほど、また高緯度ほど種子の酸素安定同位体比が低くなることが明らかになった。この原因としては標高や緯度の増加に伴う気温の減少が影響していると考えられた。しかし、他のサクラ類(ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ)ではウワミズザクラほど明瞭な関係は得られなかった。また、日光植物園で42植物種の種子の酸素安定同位体比を計測したところ、ヤマブドウの13‰からカスミザクラの30‰まで、植物種間で大きなばらつきがみられた。全体的には、結実が早い植物ほど、また高木、低木、ツル植物の順で種子の酸素安定同位体比が高い傾向がみられた。