| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-160 (Poster presentation)
生物の繁殖回数はこれまで、一回繁殖か多回繁殖かという二値的な形質として議論されてきた。実際には、繁殖回数の期待値は連続的であるため、繁殖回数の進化を理解するためにはその連続性を考慮する必要がある。二年生一回繁殖型の植物では、一年目に根茎葉の栄養器官(ロゼット)を形成して越冬し、二年目に開花結実し枯死する。発表者らはこれまでの研究で、キク科シオン属の二年生草本とされているヤマジノギクAster hispidus種群のヤマジノギク、ツツザキヤマジノギク、ヤナギノギクと、近縁種カワラノギクA. kantoensisにおいて、ロゼットをもつ開花個体(以下、開花株ロゼット)の存在を明らかにしてきた。2016〜2018年に上記分類群の計9集団を調査した結果、ロゼットを持つ開花株の割合に0%〜25%の間で集団間変異が見出され、草原環境で低く、河原や蛇紋岩地において高い傾向がみられた。また、開花株ロゼット形成率が比較的高かったカワラノギク・ツツザキヤマジノギクを対象にした追跡調査により、開花株ロゼットを介した多回繁殖が実際に行われていることが明らかになった。生活史の中にこの多回繁殖を考慮した推移行列モデルを作成し、解析的にパラメーターの感度分析を行ったところ、開花株が開花株ロゼットを介して翌年も繁殖する確率の変化は、開花株の種子を介してロゼットになる確率の変化よりも集団の増殖率に対して大きな影響を及ぼすことがわかった。これらの結果は、開花株ロゼットが保全上も重要な生活史上のステージであることを示すとともに、ヤマジノギク種群・カワラノギクが、繁殖回数進化のよいモデルとなる可能性を示している。