| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-166 (Poster presentation)
開花中に花形質を変化させる植物が知られている。例えば、花弁開閉幅の日内・日間変化や、花齢に伴う蜜分泌量の減少などである。これら花形質の変化について、隣花受粉を防ぐ、花齢の進んだ花での蜜節約と再訪花促進など、訪花者の行動と関連付けた説明がされている。花形質の時間変化への応答が訪花者タイプごとに異なるなら、多様な訪花者タイプ獲得の戦略のひとつと言えるかもしれない。その結果として、複数の訪花者種による花形質への淘汰が起こるだろう。
本研究ではシソ科クロバナヒキオコシを材料に、蜜量を含む花形質が開花期間中に変化するか、さらに訪花者の応答を調べた。クロバナヒキオコシは雄性先熟の左右対称花で、合弁の花筒に上唇弁、下唇弁が付く。開花1日目から4日目までの各花ごとに、下唇弁の長さ・幅・深さ、上唇弁の高さ・幅、上唇弁と下唇弁の先端の間の距離、蜜量・糖濃度、訪花者タイプごとの訪花頻度と滞在時間を計測した。さらに訪花者タイプ多様度を評価した。
その結果、上唇弁と下唇弁の先端の距離は花齢とともに大きくなる一方で、他の形質は花齢や花位置、個体サイズに伴うバラつきは見られなかった。マルハナバチの訪花頻度は上唇弁の高さと正の関係、下唇弁の高さと負の関係があった。一方、コハナバチの訪花頻度は上唇弁と下唇弁の先端の距離と正の関係があった。さらに、上唇弁と下唇弁の先端の距離が大きい花ほど、多様な訪花者タイプが訪花していた。
本研究の結果は、クロバナヒキオコシは、開花中に変化する形態を持つことででジェネラリスト的訪花者を獲得することを示す。 また、多くの左右相称花と同様に、各花形質には安定化淘汰が及んでいて、それは複数の訪花者タイプによってもたらされていることが示唆された。