| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-187 (Poster presentation)
卵の孵化温度によって性が決まる温度依存性決定は、爬虫類や魚類に広く見られる。低温で雌に高温で雄になるFM型(多くのトカゲ)、低温で雄に高温で雌になるMF型(多くのカメ)に加えて、低温と高温でともに雌になり中間温度で雄になるFMF型(カメ、ワニ、トカゲなど)が知られている。
温度依存性決定の適応的意義については、「温度によって生育速度が異なり、その適応度への効果が雌雄によって異なる」とするCharnov-Bull仮説に基づくゲームモデルが提唱され、トカゲの一種やトウゴロウイワシ目の一種を用いて実証されている。しかし、どのようなメカニズムで温度依存性決定が実現しているのかについて理論的研究はまだおこなわれていない。そこで、雌雄を決定するホルモンのダイナミックスを考え、そこに関与する酵素の反応速度が温度依存する場合に、どの温度依存性決定パターンが現れるかを考察した。
全ての酵素反応の速度が同じ温度依存性を持つと、平衡状態のホルモン量は変化せず、温度性決定は生じない。エストラジオールやアロマターゼの生産に関わる反応速度の温度依存性が強いときにはMF型が現れる。逆に、エストラジオールやアロマターゼの分解反応の温度依存性が強いときにはFM型が出現する。酵素反応は一般にアレニウス式に従うことがわかっている(絶対温度をTとして反応速度がexp[-a/T]に比例)。ところが、性ホルモンダイナミックスの各酵素反応の温度依存性がアレニウス式に従うときは、どんなに工夫してもFMF型の温度依存性決定は作れない。温度性決定を示す爬虫類の多くで見られるFMF型を出すには、高温での温度依存性をさらに高める特別の機構が必要である。例えば選択的スプライシング、翻訳後修飾、多量体形成などが温度依存的に生じると推測される。