| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-206 (Poster presentation)
森林における昆虫や菌類の大発生による樹木の枯死(病虫害)は、本来であれば森林生態系のダイナミクスの一部であり、多様性を生み出す重要な撹乱レジームの一つである。しかし、貿易等によって人為的に本来の生育地外に持ち込まれた昆虫や菌類は、時として侵入先の森林生態系に壊滅的な被害をもたらすことがある。マツ材線虫病(以下、マツ枯れ)は、その代表的な例である。北米原産のマツノザイセンチュウが木材輸入によって持ち込まれることで、日本を始めとする東アジアや、ポルトガルやスペインなどの南ヨーロッパ諸国のマツ林で大量枯死を引き起こしている。マツ枯れは一度発生すると、短期間のうちに壊滅的な被害を引き起こすケースが多い。そのため、マツ枯れ被害が今後も世界規模で拡大し続けると、各地の森林生態系の機能やサービスに甚大な影響をもたらすのではないかと危惧されている。また、マツ枯れの発生は気温と密接な関係があることから、将来の気候変動による被害域の北方への拡大も懸念されている。拡大を阻止するためには、マツ枯れ発生域の拡大を予測し、効率的な拡散防止策を講じる必要がある。
そこで本研究では、気温条件にもとづく松枯れ発生危険域の気候変動に伴う変化と、松枯れの拡散スピードの両方を考慮して、気候変動に伴う将来の松枯れ被害域の拡大を推定した。これらの結果は、気候変動に伴って増大する松枯れリスクに対する適応策の立案にとっても有益な情報となりうる。