| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-208 (Poster presentation)
高齢化・人口減少が進む中国地方の中山間地域を対象に、現地調査によってシカ食害の状況を調べると同時に、地域住民に対するアンケート調査を行い、シカ被害の現状とそれを引き起こした要因について考察した。
広島県東広島市福富町を調査対象地域とし、ヒノキの大径木と多種の広葉樹が混生する二次林で野外調査を行った。林内に25m×20mの調査区を設け、上層植生の構成種、樹種別の個体数割合、シカによる角研ぎや食害の現状を記録した。下層植生については、調査区内にサブコドラート(2m×2m)を設置し、継続して被度の変化と食害の有無を記録した。住民アンケートでは、シカの目撃、被害、過去の森林利用等に関するアンケート用紙を1037部(福富町の世帯数の97%以上)配布し、郵便での返送によって回収した。
植生調査の結果、ヒノキに多数の角研ぎの跡を確認したが、枝葉や樹皮の摂食跡は樹種にかかわらず少なかった。下層にはアセビが優占していたが、食跡や被度の減少は確認できなかった。
アンケート調査では、431人から回答があり、回収率は41.6%に達した。被害については「農業被害」が最も多く、次が「被害なし」、次いで「林業被害」と「車への衝突」が同数であった。シカを目撃するようになった時期については、20年前以降という回答が7割以上を占め、シカの目撃数や被害も10年前、60年前より増えたという回答が大半であった。自由記述では、60年前は山の手入れや利用を行っていたが、近年は手が入らなくなったというコメントが多く、マツ枯れやマツタケの減少を指摘する記述も多かった。
以上のことから、マツ枯れによる森林利用の停止、放置林の拡大が、この地域のシカの増加に寄与したことが考えられる。また、現在では林内に餌植物が少なくなっており、そのことが人家近くにシカが出現して農業被害をもたらす一因となっている可能性がある。